薔薇十字神話的祖先

薔薇十字神話的祖先(モデルとなった思想)
以下思想の潮流と薔薇十字団の基本的文書には 類似性あるいは直接的影響が存在する。

薔薇十字団

薔薇十字団


・アダム
イレナエウス・アグノストゥスの薔薇十字団賛美の著書「心理の楯」ではこの「友愛団」の初代の代表者は "アダム"に他ならないと述べられている。真理の楯によると 「コンフェッシオ」第九章 薔薇十字団魔術的言語は 神が創世記に記した文字を借用している。アダムが使っていた原初の言語で楽園でのみ用いらイスラムの伝統がシリア語と同一視された光の言語である。またそれは楽園の動物たちも理解する。この言語はバビロンの混乱で破壊されたがあるレベルの霊性に達した者ならば再発見する事も可能である。また「コンフェッシオ」では、神や天使と語った族長エノクに言及しオルフェウスをほのめかしている。薔薇十字団に授けられた言葉の賜物は エデン(楽園)の言語に関連するものであり 更にはグノーシスカバラ思想は アダム文字法 魔術 錬金術 占星術の父と考えた。「科学の結婚」の太陽化の過程が現す事は「楽園再創造」の象徴であるのかもしれない。


古代エジプト
ミヒャエル・マイアーは「騒ぎのあとの沈黙」で薔薇十字団の思想を古代エジプトまで遡らせている。マイヤー説では、薔薇十字団はトトメス3世(前1500〜1447)によって創設されアメノフェス3世の時代まで発展したという。オシリスは 弟セトによって殺害され遺体は海に流された。オシリスの妹であり妻のイシスは その遺体を発見するが執念深いセトは イシスからオシリスの遺体を奪い取り14の断片に切断した。イシスは長い間のオシリスの断片を拾い集める。エジプトの儀礼では 浄化の儀式から始まりオシリスの死と再生を表象する祭典を行う。その際ファラオは常にホルスの役割を演じ横たわるミイラに再び蘇る命を与える。ファラオは神の息子であるが 元々は母の胎内から生じ何時の日か神の人となる。祖先の魂は命の息吹。母に浸る事により神人に達する。この魂の運命と世界の運命を結合される努力が薔薇十字初期文書に反映されている。若返り、再生などの西洋錬金術は エジプトが揺籃の地とみなされるかもしれない。


・インド思想
「薔薇十字団の代父としてのインド思想」での説では ローゼンクロイツのオリエントへのイニシエーションの旅が彼ををアラビアへ導く。その地でインド哲学を学んだと考える場合の一つの理由として「コンフェッシオ」の中でガンジスの彼方の人々との奇蹟的な連絡法に触れている。また曼荼羅を描くことにより魔術を実践するヒンドゥー教の魔術師は 奇跡的力を自在に操り政治 社会 個人生活に用いる。膨大な距離を易々と移動する方法や未来予知法を記述したテキストもあり若返りの秘薬製造法、病気治療の秘法など 驚異的な業の全ては 薔薇十字宣言に反響しているといわれる。さらにはインド起源の粗食と裸体で暮らす独身裸行者教団は、進んで行う自らへの責め苦でわが身を痛めつけ 継続する輪廻から魂を開放する。輪廻思想は、後代のルドルフ・シュタイナーが提唱する。


グノーシス
グノーシス思想と薔薇十字団の類似性を明らかにするならば、グノーシスを経由したストア派の思想に行き着く。宇宙は生きた組織であり「体」・「霊」・「魂」を具えている。植物は植物魂を持ち動物は感覚的魂をもつ。人間は この二つの魂を持つが更にその上の知的魂をも所有している。言語と理性は 知的魂に属すこの魂は 受動性と能動性に分かれる。能動的魂とは 神聖かつ創造的な不死の存在である。「化学の結婚」によると王族のカップルの供儀の場面では魂についてグノーシス的観念を象徴的に表現しているとする批評家もいた。ミクロコスモスとしての人間は 世界の半分にしか過ぎない。残りの半分は物質の虜でない世界に属し全世界を包み込む。しかし不幸な事にこの二つの同心円の世界には断絶があり神の世界(光の国)と闇の王国とは切り離されている。後者は悪しき執政官に統治され創造主に反抗を繰り返しこの世のプリンス(悪魔)に身を捧げているのである。ユングの「心理学と錬金術」に再録されている図版では 父なる神の頭にぴたりとついたキリストの頭から生命を創造する宇宙の火の環が延びているがキリストの頭は神の世界とこの世とを隔てる暗い環、地獄の火の環にも繋がる。次に純粋なエーテルの圏から雲のある空に至る4つの同心円がくる。中心の圏である7番目の圏は地球であり暗い球体で現されている。 ミクロコスモスとしての人間は地球の空、円環を占めている。
『彼はルシフェルの暗い火によって神から切り離されているので 物質と悪霊から自らを解き放ち、7つの圏を越え上昇する事でしか救済されないのである』
グノーシス 錬金術 薔薇十字団の共通する要素は明確である。「科学の結婚」の塔内での7階から8階に移動、夢の重要性 人間が未来を予言する能力 諸々の存在を創造する「火」 天界の大洋の渡航 神へ向かっての上昇などである。


ピュタゴラス
ピュタゴラス教団のメンバーには 「達人と沈黙」の試練が課せられた新参者がいた。「忘却の泉」の通過は「化学の結婚」の「忘却の飲用」を予告する。ピュタゴラスはに課せられた禁欲の掟は人間と宇宙の間の失われた調和を回復する事を目的としていた。肉体は不純物であり封じ込められた魂は 死後肉体を離れハデスの国で浄化されると また別の肉体へと移ってゆく。前世で犯した罪を償い、ついには存在の範から開放され不死へと到達する。


・エレウシスの秘儀
先のミヒャエル・マイアーは 薔薇十字団の遠い祖先の一つとしてエレウシスの秘儀を挙げている。「化学の結婚」のコメディは アレクサンドリアプルタルコスの伝えるエレウシスの秘儀の中で演じられた「演戯」を想起される。クロノスの娘デメテルは 娘のコレがハデスに誘拐され冥府に連れて行かれたためオリンポスを去り九日九夜苦痛に喘ぎ地上を彷徨う。エレウシスのイニシエーションは 娘コレの見せ掛けの「死」を通過し生への復帰、ゼウスとデメテルの神聖結婚へと至るのだった。 この「演戯」の間 儀式用の聖なる品々が展示され、「科学の結婚」の可動祭壇の上の品物を思わせる。


・アラビアとサービア教徒の影響
「ヘルメス文書」のギリシア語版は 6世紀から11世紀のサービア教徒の手により保存されていた。アラビアの住民は 王・預言者 そして哲学者として三重に慈悲深いヘルメスを崇拝する。彼らは偉大な占星術の知識を持つ教団や錬金術の秘密を所有する教団を形成していた。彼らの富と文化は、聖書に
証言を提供している。例えばシバの女王がソロモン王を訪ね 王に贈り物をする際 謎を投げかけた場面。一方では ミヒャエルがセリビアのイシドルス(セリビア大司教560年ー636年)に依拠して 不死鳥は幸いなるアラビアの存在していたと主張した。ローゼンクロイツはダムカルで宇宙創成論についての啓示を受けたらしいと書いてあるところから判断すると「ファーマ・フラテルニタティス」の著者は サービア教徒へのヘルメス主義文化を知っていたと思われる。ローゼンクロイツは ダムカルを経てフェズに導かれる。この町には多くの錬金術師が存在したり未来を予言する占師も大勢いた。中世のアラビアの学者は 代数、 解析幾何 平面三角法 球面三角法 整数論 錬金術の進歩に貢献している。

薔薇十字団 (文庫クセジュ)

薔薇十字団 (文庫クセジュ)






【ファーマ・フラテルニタティス】
(薔薇十字団の名声)』(1614年)
ローゼンクロイツが中東を旅して神秘学に通じ、ドイツで薔薇十字団を結成して106才で死去するまでの生涯を記す。
【コンフェッシオ・フラテルニタティス】(薔薇十字団の信条告白)』(1615年)
『名声』を補足する啓蒙書。神への信仰と旧組織の改革の必要性
化学の結婚】(1616年
ある隠秘学者(ローゼンクロイツ)が王と女王の結婚式に招待され、試練の旅の末に黄金の石の騎士団に選ばれ、神秘学の奥義を極めるまでの物語。その文章は暗号や隠喩で覆い尽くされている。


私=ローゼン・クロイツ
突然私の元に天使のような女性が現れ、1通の手紙が渡される。
それは、「ジョン・ディーの秘密の記号」で封印された結婚式の招待状であった。
結婚式に参列する者は、神に選ばれた人物。
私は絶望した。罪深い自分には そんな資格があるのかと。
そのまま眠りにつくと夢からのお告げがあった。
「結婚式に参列することが神からの恩恵である」と。
私は白いリネンの上着に赤いリボンをたすきにかけ十字に結ぶと、
帽子には4つの赤い薔薇を刺して出発する。


私は 導かれるように道をすすみ会場の城につく。
城の広間には大勢の客が居たが、皆「うぬぼれ屋」ばかりで、
自慢話に花を咲かれている。
婚礼参列の資格審査は翌日に行われると知らされるが、
自分の愚かさを自覚している私は、それに挑戦することを断念する。


あくる日の審査は大きな天秤の上に載せられた。
信仰、慈愛、融和、純潔、忍耐、謙虚、節制の「重さ」を計るためである。
私は夕べ諦めていたにもかかわらず、実にあっさりと審査に合格してしまう。
頭に刺していた赤い薔薇を計量していた乙女に薔薇を手渡す。
これは「大いなる作業」の象徴となる。
そこで私は、「翼ある獅子」の絵のついた「金羊毛」を与えられた。
合格者達と共に「錬金術」という名前の乙女を団長とする騎士団に入団する。
私は城を見学する事がゆるされが 城の中には鉱山や工房、天体観測機器、
図書館、王達の墓場があった。
夕食時には騎士団のメンバー達が ルネサンス風の小話を語り、
食事の儀式や夢を見る。すべては錬金術の寓意に満ちた内容であった。


結婚式当日。
象徴的な儀式の後、錬金術の実験室に行き、「3組の王と王妃」を紹介され
ダンスや寓意的な芝居を見る。
その夕刻 厳粛な雰囲気の中、結婚式が始まる。
「3組の王と王妃」が首を切られ血は金の杯に、
遺体は棺に納められる、というものだった。
その晩私は7隻の船に棺が運びこまれるのを見た。
船の上方でゆれる火は 死者の魂であった。
 

あくる朝 早起きをした私は、城を再び見学すると
「ビーナスの墓」に行きつき裸のビーナスを見てしまう。
そして、昨日殺された王達の葬式が行われようとしていた。
騎士団長の乙女の「錬金術」の提案により、私たち騎士団は
船で「オリュンポスの搭」まで航海し王達を「生き返らせる薬」を取ってくることになる。
『その搭は7層から成っていた。』
私達は薬草や宝石から、エッセンスを抽出する作業を行う。
その夜、私は一人で惑星の「合」を発見し、7つの火の玉が搭の天辺に留まるのを目撃した。


王達の遺体に、昨日作った薬を用いる。
溶液から卵を作り、卵から鳥が生まれ、その鳥を風呂に入れ、殺して焼いて灰にした。
私は三人の仲間達と共に、何故か最終作業から締め出しをくうが
実は最も重要な作業を任せれていた。私達は最上段の第7層に案内され、
「鳥の灰から美しい少年と少女をつくった」←(王と王妃の復活)
こうして王と王妃は復活し、もといた城へと戻って行った。
 
次の日 私達は「黄金の石の騎士」に選ばれる。
船で城に戻ると、王と王妃に迎えられる。
私達は誓いをたて、騎士に叙任され同時に愚かさと貧困と病気を支配する力が与えられた。

署名には「無知こそ最高の知なり」と記した。